はじめに:防災とアウトドアが融合する新市場
近年、自然災害の頻発とアウトドアブームの高まりから、「防災兼用ギア」という新しい市場カテゴリが急速に成長しています。従来の「非常時専用」という枠を超え、日常生活でも使える「フェーズフリー」なアイテムが消費者から支持を集めており、小売店にとって見逃せない商機となっています。
本記事では、市場背景から消費者ニーズ、具体的な売れ筋商品、そして効果的な販売戦略まで、小売店のバイヤーやEC事業者が押さえておくべきポイントを包括的に解説します。

防災兼用ギア市場の成長背景
災害多発による防災意識の向上
地震や台風などの自然災害が頻発し、停電や断水が身近なリスクとなったことで、防災意識調査では約80%が「食料・水不足」を不安視し、約74%が「家庭備蓄の充実」を希望しています。実際、Yahoo!ショッピングの2024年上半期トレンドでは、地震発生後に防災用品売上が前年同期比2.5倍に急増するなど、関心の高まりは数字にも表れています。
アウトドアブームとの相乗効果
新型コロナ禍での「密にならないレジャー」としてキャンプ需要が伸長し、これが災害対策ニーズと重なりました。アウトドア業界では阪神大震災以降、「小さく収納、大きく展開」というキャンプ用品の利点が防災にも活かせると注目されており、多くのブランドが防災・アウトドア兼用ギアを開発しています。調査では65.6%が「キャンプギアが防災にも役立つ」と回答しており、両市場の融合が進んでいます。
巨大市場への成長可能性
政府のレジリエンス計画では、防災・減災ビジネス市場を20兆円超(名目GDP比5%弱)と試算しており、大企業が参入しづらいニッチ分野を中小事業者が支えている現状です。市場拡大が続く一方で参入企業は限られており、柔軟性のある小規模事業者にとって成長チャンスが広がっています。
消費者が求める「フェーズフリー」な防災グッズ
日常使いと兼用できる商品へのシフト
調査によれば、4割以上が「防災意識は年々高まっている」と感じており、購入時重視点は「長期保存可能か」「必要なものが揃っているか」「日常使いできるか」が価格より優先されています。46%が「日常使いと兼用できる商品」を購入したいと回答しており、従来の「非常時専用」から「フェーズフリー(日常・非常兼用)」へのシフトが顕著です。
ローリングストック実践者の増加
備蓄品を日常的に消費しながら補充する「ローリングストック」は3割超が実践しており、防災用品を生活に溶け込ませる意識が浸透しています。これは小売店にとって、継続的な購買につながる重要なトレンドです。
人気カテゴリーの傾向
人気の防災グッズ上位は「水」「非常食」「モバイルバッテリー・乾電池」「マスク・ウェットティッシュ」「携帯トイレ」などで、いずれも保存性・携帯性に優れた商品が選ばれています。特にアウトドア製品への関心が高く、寝袋は準備すべき用品として72%に支持されるなど、キャンプギアが需要を牽引しています。
今仕入れるべき売れ筋カテゴリーと商品例
ポータブル簡易トイレ・携帯トイレ
折りたたみ式や組立式の携帯トイレは常備必須で、楽天市場の防災グッズランキングでも上位に並びます。便座付き簡易トイレやコンパクト携帯トイレセットなど、設置が簡単でコンパクトに収納できるタイプが人気です。大人子供兼用で半永久保存できるタイプもあり、ファミリー層にも訴求力があります。
飲料水・給水タンク
長期保存可能な備蓄水(2L×6本セット)や折りたたみ給水タンク(10~20L)は必携アイテムです。無印良品の12L給水タンクのように、日常使いできる備えとして紹介される商品が支持を集めています。折畳み式で普段使い可能な点が、フェーズフリー需要にマッチしています。
照明・電源(LEDライト・ヘッドランプ・モバイルバッテリー)
停電対策にLEDランタンやヘッドランプが必須です。両手が空くヘッドランプや、リチウムバッテリー搭載のランタンは特に人気があります。モバイルバッテリーや小型ポータブル電源もスマホ充電用に需要が高く、USB充電可能な多機能ライトが売れ筋です。
寝袋・保温シート・防寒グッズ
保温用寝袋やアルミブランケットは災害時に体温低下を防ぎます。キャンプ用寝袋は非常用にも有用で72%が推奨用品に挙げており、エマージェンシーシートや防寒パーカも備えておくと安心です。保温・防寒機能に加え、枕代わりや床シート代用にも使えるアルミシートが注目されています。
調理器具・カセットコンロ
電気不要のカセットコンロや固形燃料ストーブは停電時の調理に役立ちます。アウトドア用携帯ストーブやマルチクッカーも売れ筋で、缶詰加熱や湯沸かしに使える実用性が評価されています。
多機能ラジオ・情報収集器
手回し/ソーラー充電対応のラジオライトは情報収集と照明を兼用でき、携帯ラジオやAM/FM受信機が人気です。災害情報収集と通信確保の両方に対応する多機能化が進んでおり、スマホ充電機能付きのモデルが選ばれています。
アウトドアカジュアルアイテム
軽量ポンチョ、折りたたみチェア、携帯テントなど、レジャーにも使えるアイテムは日常用グッズとして評価されます。突然の雨から身を守る超コンパクトレインウェアなど、携帯性に優れた商品が支持されています。
小売店・ECショップの販売戦略
店頭での効果的な陳列と演出
9月1日の防災の日に合わせた特設コーナーを展開し、「アウトドアコーナー」や「キッズコーナー」と連動させることで、生活雑貨店らしさを打ち出せます。無印良品の「いつものもしも」シリーズのように、撥水リュック・水タンク・防寒具などをパッケージ展示し、実際に詰めるワークショップを実施することで、体験型の訴求が可能です。
東急ハンズやLoftでも、防災グッズを「普段使いアイテムとして体験できる」コーナー作りが効果的です。日常生活での使用シーンを想起させる展示により、購入ハードルを下げることができます。
ECでのコンテンツマーケティング
ECサイトではカテゴリーページや特集ページを設け、「フェーズフリー」「ローリングストック」をキーワードにした記事コンテンツや動画を提供しつつ、関連商品をバンドル提案すると効果的です。防災チェックリストや保存食レシピ、簡易トイレの使い方動画などを配信することで、集客から購入・リピートにつなげられます。
SNS・メールでは「家族で備えよう」キャンペーンやQ&A、ユーザーレビューを活用し、安全訴求と共に「日常×防災」の生活提案を行います。使い勝手を明示した商品説明や、サンプルセットの提示も購入後押しになります。
リスク管理と差別化
「売れ残りリスク」への対策として、小ロット仕入れ対応の問屋やODMを活用し、新商品を小規模で試すことでリスクを抑えられます。また、自治体や防災協会等とのコラボイベントやワークショップ、オンラインセミナーなどを開催し、専門性をアピールする場を設けることも機会になります。
フェーズフリー協会認証や防災士監修マークなど付加価値の高い企画商品を扱えば、独自の品揃えで他社と差別化できます。
ファミリー層への効果的な提案アプローチ
子育て世代の防災ニーズ
子育て世代に響く提案は「日常生活と一体化した備え」です。調査では子育て世帯の72.8%が備えありと回答していますが、子供向けの特化備えは約6割に留まり、4割は手つかずという結果です。ここに提案の余地があります。
子供と一緒に「避難場所を確認する」「災害時対応を話し合う」(22.3%)、「子供用防災バッグを用意する」(18.5%)といったコミュニケーションも重視されており、親子で取り組める商品展開が効果的です。
体験型・教育型の商品提案
モンベルは「子どもの遊びに”慣れないこと”を取り入れ、いざというときに役立てよう」とアドバイスしており、遊びながら学ぶ切り口が重要です。子ども用ライトセットや防災ぬいぐるみ、家族でできる防災ゲーム教材など、親子で楽しみながら備えられる商品が有効です。
また、普段使いできる撥水リュックやレインウェアはアウトドアにも活用でき、いざ非常時にはそのまま持ち出せる工夫があります。「遊びながら学ぶ」という視点で、子供も楽しく備えられる提案をするのがポイントです。
店頭での家族向け演出
店舗では家族目線の演出として、親子用セットや体験型イベント(ワークショップ、防災キャンプ体験等)を企画すると効果的です。子供が実際に商品に触れ、使い方を学べる場を提供することで、家族全体での購買意欲を高められます。
バイヤー・問屋が知るべき導入メリット
客単価アップと新規需要の獲得
バイヤーにとっては客単価アップと新規需要の獲得が見込めます。防災兼用ギアは季節プロモーション(秋の防災週間、冬の災害備え提案など)が組みやすく、アウトドア用品やキッズ用品と組み合わせてプライシングしやすいため、一人当たりの購入金額増加が期待できます。
差別化要素としての専門性
他店との差別化要素となるため顧客満足度の向上にもつながります。家族連携の提案テーマで「集まれる店」としての専門性もアピールでき、既存客のファン化にも寄与します。「フェーズフリー」などコンセプト訴求を活かせば、低価格競争に陥りにくい商品群として扱えます。
問屋視点の成長機会
問屋としては、小ロット対応でオリジナルブランドやノベルティ展開が可能な商品群(携帯トイレキット、備蓄食、電池セットなど)を扱うことで、卸先小売店のリスクを軽減しつつ供給安定性をアピールできます。市場拡大中の一方で参入企業は少なく、柔軟性のある小規模事業者が成長チャンスを捉えている状況です。
高付加価値商品で卸価格を取りやすく、幅広い客層への提案機会が増えるため、安定成長分野として取り組むメリットは大きいでしょう。
まとめ:次のステップへ
防災兼用ギア市場は、災害多発とアウトドアブームという2つの追い風を受け、20兆円規模への成長が見込まれる有望市場です。消費者ニーズは「非常時専用」から「フェーズフリー(日常・非常兼用)」へシフトしており、小売店には新たな商機が訪れています。
売れ筋は携帯トイレ、備蓄水、LED照明、寝袋、調理器具など多岐にわたり、いずれも「普段使いできる」という付加価値が購買を後押ししています。店頭では体験型の陳列やワークショップ、ECではコンテンツマーケティングとバンドル提案が効果的です。
特にファミリー層への「遊びながら学ぶ」アプローチや、専門性を活かした差別化戦略により、客単価アップと顧客満足度向上の両立が可能です。バイヤーや問屋は、この成長市場での早期参入により、競争優位性を確保できるでしょう。
まずは小ロットでのテスト仕入れから始め、自店に合った商品ラインナップを構築することをお勧めします。フェーズフリー認証商品や防災士推奨品など、信頼性を訴求できるアイテムを中心に、顧客との対話を通じて品揃えを進化させていくことが成功の鍵となります。
コメント