温浴施設の売上を伸ばしたいと考えたとき、「来館者を増やす」「飲食を利用してもらう」といった施策がまず候補になります。一方で、すでに来館しているお客様に対して、まだ十分に提案できていない売上があります。それが物販です。この記事では、温浴施設の客単価を考えるうえで、物販を「もう一つの売上」として育てる基本的な考え方と、商品・売場・ECまでの具体的な設計方法を紹介します。
温浴施設の客単価を上げるなら「来館後の売上」に目を向ける
温浴施設の売上をシンプルに考えると、
来館者数 × 1人あたりの利用金額
という構造があります。
売上を増やすには来館者を増やす方法もありますが、広告やキャンペーンだけに頼って集客を増やし続けるのは簡単ではありません。そこで考えたいのが、「すでに来てくれたお客様に、施設の中でどれだけ価値を提供できるか」です。
温浴施設にはすでに、
- 入館料
- 飲食
- 岩盤浴
- リラクゼーション
- レンタル
- 売店
など、複数の売上ポイントがあります。この中で物販には、施設を出た後まで価値を延長できるという特徴があります。集客だけに頼らず、来館後の売上機会をどう設計するかという視点は、業態を問わず温浴施設の経営改善において重要なテーマになりつつあります。
温浴施設の物販を「売店の売上」だけで考えない
物販というと、「タオルを販売する」「サウナハットを置く」「お土産を増やす」といった商品の話になりがちです。しかし、客単価を考えるなら、その前に物販の役割を整理する必要があります。
従来の売店は、忘れたタオルを買う、飲み物を買う、地域のお土産を買うといった機能が中心です。これはもちろん必要な売店機能ですが、多くは「必要だから買う」という購買にとどまっています。
ここに、「欲しいから買う」という売上を追加します。たとえば、
- 「今日のお風呂上がりが気持ちよかったから、自宅用にこのタオルが欲しい」
- 「サウナに通うようになったから、自分用のサウナハットが欲しい」
- 「温泉好きの家族にプレゼントしたい」
- 「この施設が好きだから、オリジナル商品が欲しい」
という購入です。物販売上を伸ばすポイントは、必要品の販売から、施設体験をきっかけにした購買まで広げることにあります。
客単価を高める鍵は「施設体験」から商品を提案すること
温浴施設で物販が成立しやすい理由の一つは、お客様が商品を見る前に、すでに「体験」をしていることです。
一般的な雑貨店では、商品を見る → 説明を読む → 使った状態を想像する → 購入する、という流れになります。温浴施設では、入浴する → サウナを楽しむ → お風呂上がりを過ごす → 心地よさを感じる → 関連商品を見る、という順番をつくれます。
つまり、商品から体験を想像してもらうのではなく、体験した後に商品を提案できる。ここに温浴施設物販ならではの強みがあります。
実際、おふろcaféを展開するONDOホールディングスでは、季節ごとのコラボレーション企画でオリジナルポーチやタオルなどのグッズを販売したり、施設限定の館内着やオリジナルバッグを独自に開発・販売する取り組みを行っています。物販を単独で切り離すのではなく、館内体験全体の一部として扱っている事例といえます。
温浴施設の客単価向上につなげやすい3つの物販カテゴリ
最初から幅広い雑貨を置く必要はありません。まずは、温浴体験との関連性を説明しやすい商品から考えます。
タオル|「必要品」から「持ち帰りたい商品」へ
最初に見直しやすいのがタオルです。多くの温浴施設ではすでに扱われているため、新しいカテゴリーを一から説明する必要がありません。
ただし、「忘れた人のためのタオル」だけで終わらせないことがポイントです。肌ざわりが良い、吸水しやすい、持ち運びやすい、デザイン性がある、ギフトにしやすいといった商品を、「自宅でも使いたいタオル」として別に提案します。同じタオルでも、「必要だから買う」のと、「家でも使いたいからお気に入りの一枚を選ぶ」のでは、購買の意味が異なります。
サウナ関連商品|施設利用を次回来館につなげる
サウナ併設施設なら、サウナ向けタオル、サウナハット、ポーチなどの関連小物も候補になります。
重要なのは、「今日のサウナ用品」だけにしないこと。退館時には、「次のサウナから使うもの」として提案します。すると、商品購入が次回の施設利用を想起するきっかけにもなります。
入浴後・自宅用雑貨|売店の範囲を広げる
物販をさらに広げるなら、「お風呂に入るための商品」から「お風呂上がりの時間を楽しむ商品」へ広げます。ボディケア用品、バス雑貨、リラックス雑貨、小型生活雑貨などです。ここでのテーマは、「施設で感じた心地よさを、自宅でも」です。温浴施設が一般の雑貨店と同じ品揃えを目指す必要はなく、施設体験と説明しやすい商品だけを選びます。
客単価を高めるなら「1商品」ではなくセットで考える
物販売上を伸ばすときは、商品の種類だけでなく買い方の選択肢も増やします。たとえばフェイスタオルだけを販売している施設なら、
- 自宅用お風呂セット(フェイスタオル+入浴雑貨)
- サウナスターターセット(サウナ向けタオル+サウナハット)
- 温泉・サウナ好きへのギフト(タオル+小型雑貨+ギフト包装)
という展開が考えられます。同じ商品でも、単品→セット→ギフトと用途を広げることで、新しい購入理由をつくれます。仕入れ商品を選ぶときも、「この商品単体で売れるか」だけでなく「他の商品と組み合わせられるか」を見ることが重要です。
さらに温浴施設ならではの方法として、入浴券+タオル、入浴券+サウナセットのように、入浴券と商品を組み合わせれば「温泉へ行く時間」そのものをギフトにすることもできます。誕生日や母の日、敬老の日など、通常の入浴利用とは異なる需要にも展開できます。
初めて物販を強化するなら少数SKUから試す
売店を強化するときに、一度に大量の商品を仕入れる必要はありません。あくまで一例としてですが、次のような小さな構成から試すことができます。
初期導入の一例(5〜7SKU程度)
- 自宅用フェイスタオル
- サウナ向けタオル
- サウナハット
- 入浴後用雑貨
- 小型生活雑貨
- タオル+雑貨セット
- サウナセット
施設の規模や客層によっては、これに季節企画を加えた10SKU前後の標準構成へ広げる考え方もあります。ここで挙げたSKU数や構成はあくまで検討の出発点であり、施設ごとの客層や売場面積によって最適な数は変わります。
ここで確認したいのは、何が売れたか、何が手に取られたか、自分用とギフトのどちらが多かったか、どの売場で反応があったか、どのPOPが分かりやすかったか、スタッフが提案しやすかったか、といった点です。「売れなかった商品=需要がない」とすぐに判断せず、商品×価格×置き場所×見せ方を分けて検証します。
店頭での売り方|置き場所・POP・接客トークまで設計する
商品紹介だけでなく、「どう売るか」まで設計する必要があります。施設利用者は買い物を目的に来館しているわけではないため、売店へ行けば商品があるというだけでは、商品を知らないまま退館する人もいます。そこで、館内の行動に合わせて商品を知らせます。
- 入館時(フロント付近):今日使える商品(タオル、サウナハット、サウナ用品)
- サウナ入口周辺:「サウナハット・サウナタオルは売店で販売しています」といった案内
- 脱衣所〜退館導線:自宅へ持ち帰る商品(タオル、ボディケア、バス雑貨)
- 休憩スペース・レジ横:追加購入・ギフト(小型雑貨、ギフトセット、オリジナル商品)
売店だけを売場と考えるのではなく、館内全体を商品との接点として設計することが重要です。
接客トークも、商品を知らせる有効な手段です。たとえば、
- 「サウナをご利用される方には、こちらのタオルもよく選ばれています」
- 「こちらはご自宅のお風呂上がりにも使いやすい商品です」
- 「タオルとセットにするとギフトにも使いやすいです」
といった一言があるだけで、レジ横に置いてあるだけの商品でも気づいてもらいやすくなります。すべての商品を詳しく説明する必要はなく、「自分に関係のある商品かもしれない」と思ってもらう一言で十分です。
POPも同様に、商品の機能だけを伝えるのではなく、利用シーンを伝える表現を意識します。「高吸水フェイスタオル」とだけ書くのではなく、「サウナ後の汗拭きに」「お風呂上がりをもっと快適に」「自宅でも温泉帰りの心地よさを」のように、購入した後の場面が想像できる言葉を添えます。
客単価を上げるために高額商品ばかり置く必要はない
「客単価を上げる」というと、高価格帯の商品を販売するイメージを持つかもしれません。しかし、初期段階ではその必要はありません。100人に5,000円の商品を提案するという方法だけでなく、より多くの利用者に「入浴にもう一品を追加してもらう」という考え方もあります。
だからこそ、小型で持ち帰りやすく、用途がすぐ分かり、スタッフが説明しやすく、ギフトにも展開できる商品が入口になります。価格だけでなく、購入のハードルを下げることも客単価向上の設計のひとつです。
季節イベントで同じ商品の購入理由を変える
毎月新しい商品を仕入れなくても、テーマを変えることで売場を更新できます。
- 春:新生活のお風呂時間(タオル+生活雑貨)
- 夏:サウナ・汗対策(サウナ向けタオル+サウナ用品+持ち運び雑貨)
- 秋冬:自宅のお風呂をもっと心地よく(タオル+バス雑貨+リラックス用品)
- 父の日・母の日・敬老の日:お風呂好きへのギフト(タオル+雑貨+入浴券)
温浴施設では、季節企画やキャラクターコラボなどを通じて、館内体験・飲食・物販を横断的に展開する事例もあります。参考にしたいのはコラボそのものではなく、「体験・飲食・物販を一つのテーマでまとめる」という考え方です。
店頭の購入をEC・SNSへつなげ「1回来館」で終わらせない
物販をもう一つの売上として育てるなら、退館後も重要です。
施設で商品を見る → 購入する → 自宅で使用する → 商品を気に入る → ECから再購入する、という流れです。あるいは、その場で購入しなかった人にも、POPのQRコードから商品ページへ、後日購入してもらうという導線をつくれます。
SNSでも、スタッフおすすめ商品、サウナセット、季節の売場、ギフト企画、新商品などを紹介します。こうすると物販は、「退館時に1回買ってもらう施策」から、「施設と自宅をつなぐ継続接点」へ変わります。
温浴施設の客単価向上で最初に見るべき4つのポイント
現在の売店を、まず次の4つに分けてみてください。
- 必要だから買う商品:タオル、入浴用品など
- 施設体験を良くする商品:サウナ用品、タオル、関連雑貨など
- 自宅へ持ち帰る商品:タオル、バス雑貨、リラックス用品など
- 誰かに贈る商品:ギフトセット、オリジナル商品、入浴券との組み合わせなど
もし現在の売店が「1. 必要だから買う商品」に大きく偏っているなら、まだ物販を広げる余地があります。逆に商品数が多くても「なぜこの施設でこれを買うのか」が説明できない商品ばかりなら、追加仕入れより先に売場の整理が必要です。
まとめ|「もう一つの売上」は施設体験の延長につくる
温浴施設の客単価を考えるとき、入館料や飲食だけを見る必要はありません。すでに来館しているお客様には、入浴する、サウナを楽しむ、お風呂上がりを過ごす、自宅へ帰るという一連の体験があります。その中に、「今日使う」「次回使う」「家でも使う」「誰かに贈る」という商品購入の理由をつくります。
まずは現在の売店商品を、必要品・体験商品・自宅用・ギフトの4つに分類してみてください。足りない部分が見えてきたら、タオル・サウナ関連商品・生活雑貨などから少数SKUを選び、売場とPOPを含めてテストします。
物販は、単なる「売店の商品販売」ではありません。施設で生まれた心地よい体験を商品に変え、退館後までつなげる「もう一つの売上」として設計することができます。
コメント