売れているのに利益が残らない商品とは?粗利だけでは見えない仕入れの落とし穴

はじめに:「売れている」と「儲かっている」は別の話

ECや小売の現場でよく耳にする言葉がある。「この商品、よく売れているのになぜか利益が出ないんですよ」。

売上ランキングの上位に並び、注文数も増えているのに、月末の損益を見ると利益がほとんど残っていない。そんな経験をしたことはないだろうか。

この現象は偶発的なものではなく、粗利率だけで商品の採算を判断していることから生じる構造的な問題だ。物流費の高騰、モールの複雑な手数料体系、返品コスト、在庫の滞留など、粗利の外側で積み上がるコストが利益を侵食している。

日本のBtoC-EC市場は拡大を続けており、それと同時に物流コストの圧力も増している。売上の成長と利益の成長を同一視することは、以前にも増して危険な状況にある。

本記事では、「売れているのに利益が残らない商品」の正体を構造的に解説し、仕入れの判断基準をどう変えるべきかを具体的に示す。


粗利では見えない「利益を消す」コストの全体像

粗利率35%なのに赤字になるメカニズム

粗利率が35%あれば優良商品に見える。しかし実際の注文採算を積み上げると、まったく異なる姿が現れることがある。

以下は構造を示すための仮定例だ。売価1万円、仕入原価6,500円で粗利率35%の商品を想定する。

項目 1注文あたり 売上比
実現売価 10,000円 100.0%
仕入・着地原価 ▲6,500円 ▲65.0%
会計的な粗利益 3,500円 35.0%
プラットフォーム・販売手数料 ▲1,000円 ▲10.0%
決済手数料 ▲360円 ▲3.6%
出荷・物流費 ▲800円 ▲8.0%
梱包資材 ▲150円 ▲1.5%
広告・顧客獲得費(CAC)配賦 ▲1,000円 ▲10.0%
返品期待コスト ▲600円 ▲6.0%
滞留・在庫評価減期待額 ▲300円 ▲3.0%
カスタマーサポート・保証 ▲150円 ▲1.5%
注文貢献利益 ▲860円 ▲8.6%

粗利は3,500円のプラスなのに、注文1件あたり860円の赤字になっている。この商品を月1,000件から2,000件に増やすと、赤字は約86万円から172万円に倍増する。売れば売るほど損をする商品がここに生まれる。

注文数増加に喜んで広告費を追加投下した瞬間、損失はさらに加速する。粗利だけで判断する危険性がここにある。

粗利の外側で積み上がる主なコスト群

「商品原価」として計上される金額と、実際にその商品を1件売るために発生するコストの全体は大きく異なる。主な費目を整理すると次のようになる。

仕入・輸入段階では、商品代金のほかに海外内陸輸送費、海上・航空運賃、保険、関税・通関費、銀行手数料、為替差損などが発生する。外貨建て取引では、発注時と支払時のレート差も実質的なコストになる。

入庫・在庫段階では、検品・品質試験費用、荷役・ラベル貼付の作業費、保管料、在庫保有に伴う運転資本コスト、そして最終的に売れなかった場合の評価損・廃棄損がある。これらは倉庫費や共通損失として一括計上されやすく、SKUごとの採算計算から抜け落ちやすい。

販売・決済段階では、モールの販売手数料、プラットフォーム利用料、決済手数料、ポイント原資、クーポン・値引き原資、広告費の配賦分が乗ってくる。Amazonでは販売価格とは別に販売手数料、FBA配送代行手数料、保管料等が個別に積み上がる仕組みになっており、楽天市場でも月額出店料に加えてシステム利用料、楽天ペイ手数料、アフィリエイト報酬などが別途発生する。

返品・顧客対応段階では、返品配送費、再検品・再梱包の作業費、再販不能になった在庫の損失、品質クレーム対応費、保証・修理・交換費用が後から発生する。

これらを合計すると、粗利率が高く見えていた商品も、実際には薄利どころか赤字という結果になることがある。


仕入れ価格だけで判断することの危険性

「安く仕入れた」が「有利な契約」を意味しない理由

仕入れ担当者の評価指標として「前年比の単価削減率」が使われている企業は多い。しかし、仕入れ単価を5%下げる代わりに最小発注量(MOQ)が2倍になり、返品不可・前払い・外貨建て・価格改定自由という条件がついていたとしたら、どうなるか。

在庫リスク、資金リスク、為替リスク、需要変動リスクを買い手がほぼ丸ごと引き受けた状態になる。単価削減の恩恵より、これらのリスクコストの方がはるかに大きくなる可能性がある。

仕入れ契約で本来確認すべきリスク設計の例を以下に示す。

条項 一見したメリット 隠れた落とし穴
MOQ(最小発注量) 単価が下がる 余剰在庫・評価損・資金拘束の原因になる
返品不可 仕入価格が安いことがある 需要予測の誤差を全額買い手が負担
価格改定条項(一方的) 原材料変動に対応 短期の値上げで販売価格転嫁が間に合わない
前払い・長納期 単価値引きに応じてもらいやすい 運転資金・信用リスクが増大する
外貨建て 仕入価格が安く見える 円安局面で実質的な粗利が急減する

なお、B2B調達では取引条件の設計にあたって法令面の確認も必要になる。2026年施行の「中小受託取引適正化法」では、適用対象取引において一方的な代金決定や不当な支払い条件が禁止されており、購買担当者が値下げ率のみを評価軸にすることは、採算面だけでなくコンプライアンス面でも注意を要する。個別の契約の法的有効性については、弁護士等の専門家に確認することが必要だ。

着地原価(Landed Cost)で比較する習慣を持つ

仕入れの比較に使うべきは、**発注時の買い付け価格ではなく着地原価(Landed Cost)**だ。輸入品であれば、商品代に加えて海上運賃・保険・関税・通関費・国内配送費・銀行手数料などを加えた「自社倉庫に届いた時点の総コスト」が比較基準になる。

さらに販売段階では「Cost-to-Serve(その商品を売り切るまでのコスト)」も計算に入れる必要がある。物流費・モール手数料・返品対応費・広告費などがここに含まれる。

着地原価とCost-to-Serveの合計が、商品の本当の「売るためのコスト」だ。


業態別に見る「売れるのに儲からない商品」の典型パターン

ECアパレル——返品が利益を消す

ファッションECでは、特にセールや広告でランキング上位になる商品が危険なパターンに入りやすい。

返品率が高いカテゴリーの場合、往復の配送費、再検品・再梱包の作業費、再販不能になった在庫の損失が順次発生する。米国小売のデータでは、オンライン販売の返品率が約19%と推計されている例もあり(米国NRF 2025年調査の参考値。日本の数値ではなくカテゴリー差も大きい)、返品を「売上取消」として処理するだけでは実態の損失が見えにくくなる。

返品を独立したコストセンターとして管理し、SKU・サイズ・理由別に分析することで、構造的に返品率が高い商品の特定が可能になる。

B2C家具・家電——大型商品の配送費と破損リスク

高単価で粗利額が大きく見える大型商品も注意が必要だ。大型配送には時間指定・再配達対応、組み立てサービス、破損による返品・交換リスクが伴う。保管容積も大きいため保管料の負担も重い。

「粗利額が大きいから優先商品」という判断をする前に、配送費を注文件数で割った1注文あたりの配送原価と、1立方メートルあたりの粗利を確認する習慣を持ちたい。

B2C食品・日配——廃棄と値引きが実現粗利を削る

回転が速い日配品や惣菜は、売上高ベースでは優良に見えることが多い。しかし廃棄・値引き販売・温度管理コスト・棚卸ロスを控除した後の「実現粗利率」で見ると、採算が大きく異なる場合がある。

時間帯・曜日別の販売構成と廃棄率を組み合わせて分析することで、値引きが集中する時間帯の商品ごとの実採算が見えやすくなる。

B2B消耗品——小口・高頻度注文の処理コスト

低単価の消耗品を小口・高頻度で受注している場合、無料配送条件での配送費、受注・請求・入金管理の事務処理費、個社別リベートの管理費が積み上がり、顧客ごとの採算が大きく異なることがある。

「取引先が多い=良い」ではなく、顧客別の注文貢献利益を把握することで、採算の悪い取引先への価格・条件の見直し交渉が可能になる。


採算を正しく把握するKPIと管理の段階設計

粗利率から「貢献利益」への移行

商品の採算管理において、粗利率は「入口のKPI」に位置づけるのが適切だ。最終的な判断基準は、次の段階で積み上げた数字になる。

実現売上高(値引き・クーポン・返品控除後)から始め、着地原価を引いて粗利益を算出。そこから決済・販売手数料・出荷物流・梱包・返品期待コストを引いた数字が「貢献利益CM1」になる。さらに広告費・検品費・カスタマーサポート費・保証費・SKU固有の保管費を引くと「貢献利益CM2」が求まる。在庫評価損・棚卸ロス・固定費の配賦まで含めた数字が「フルコスト利益」だ。

「もう1件売る意味があるか」を判断するのが貢献利益、長期的な商品・事業採算を判断するのがフルコスト利益という位置づけになる。

在庫効率をGMROIで評価する

粗利率だけでは在庫に拘束された資本の効率が見えない。在庫投資1円が生む粗利の大きさを示すGMROI(粗利益÷平均在庫投資額)を活用すると、商品間の資本効率の比較が可能になる。

「粗利率50%・年1回転」と「粗利率25%・年8回転」では、GMROIは後者の方が高い。粗利率だけで前者を優先すると、資金の回転効率を見誤る可能性がある。

ECではさらにCMROI(貢献利益÷平均在庫)を併用すると、広告費や返品費を含めた実態に近い在庫効率が把握できる。

SKUを四象限で分類して優先順位をつける

すべてのSKUを同じように管理するのは非効率だ。貢献利益率と在庫回転率の二軸で商品を分類すると、対応優先度が明確になる。

高回転 低回転
高貢献利益率 主力。欠品防止・供給強化を優先 MOQ・価格・品揃えを見直して回転改善
低・負の貢献利益率 最優先是正。売れるほど赤字になる商品 縮小・終売・仕入れ停止の候補

最も注意が必要なのは「高回転・低(負)貢献利益率」の象限だ。売上貢献度が高く見えるため放置されやすいが、売れるほど損失が拡大する。


国内外の事例から学ぶ「利益が消えた構造」

オイシックス・ラ・大地——物流センター移転が利益を直撃

食品EC国内大手のオイシックス・ラ・大地は、2022年3月期に売上高の上方修正を行う一方、営業利益の予想を50億円から40億円へ引き下げた。新物流センターへの移転時に入荷が混乱し、実在庫とデータ在庫が一致しない状態が生じ、欠品・出荷遅延・手作業対応・顧客対応が連鎖した。

「物流は販管費だから商品戦略とは別」という考え方の危険性を示す事例だ。在庫精度の崩壊は、欠品・販売制限・廃棄・機会損失へと連鎖する。物流コスト管理と在庫精度は、利益KPIの一部として捉えるべきだ。

ニトリHD——物流改善を上回る円安・輸入原価の影響

ニトリホールディングスは2024年3月期第1四半期に、連結売上高が前年比+0.9%と成長する一方、営業利益は▲10.7%という結果になった。同社が進めていた物流内製化・拠点再配置によるコスト削減が、円安に伴う輸入原価の上昇を相殺しきれなかった形だ。

「物流改善だけ」あるいは「仕入れ単価だけ」を追っていても、為替・調達・販売価格を一体で管理しなければ利益を守れないことを示している。

Target——過剰在庫が売上成長下で利益を壊したケース

米国の大手小売TargetはQ2 2022年に、総収益が前年比+3.5%成長する中で、営業利益が前年比▲87%まで落ち込んだ。過剰在庫の値下げ処分、在庫評価影響、保管・作業費、ラストマイル費用が複合的に重なった結果だ。同社はその後、秋物の裁量的商品の入荷を15億ドル超削減する方針を打ち出した。

過剰在庫の損失は仕入れた瞬間ではなく、数か月後にP/Lへ現れる。粗利管理だけでは発見が遅れる構造になっている。

ASOS——高い粗利率でも採算が成立しない理由

英国のファッションECであるASOSは、2025年度の調整後粗利率が47.1%に対し、Cost-to-Serve(配送・倉庫・マーケティング費等の合計)が売上の42.0%に達している。粗利率が高くても、ECに固有のコスト構造によって最終採算が大きく圧縮されることを具体的に示す数字だ。

同社は売上規模の最大化から「持続的な利益成長」重視への方針転換を進め、高返品行動へのデータ活用施策、商品フィット・品質の改善、運送会社との契約再交渉などによって配送費率の改善を図っている。


今日から始める改善の実務ステップ

まず「見える化」から着手する

高度なシステム投資より先に、まず赤字のSKUを特定して止めることが最優先だ。精緻なBIを導入しても、販売手数料や返品費がSKUに紐付いていなければ、間違った粗利を高精度に可視化するだけになってしまう。

**短期(0〜8週間)**で取り組むべきことは、SKUとチャネルの組み合わせごとの貢献利益を計算できる表を作ること、費目の定義を統一すること、赤字広告を停止すること、そして滞留在庫を一覧化することだ。

**中期(2〜6か月)**では、返品理由のコード化とSKU別の紐付け、在庫の年齢別(30/60/90/180日超)管理、MOQ・価格改定・支払い条件の再交渉を進める。

**長期(6〜18か月)**では、注文・在庫・広告・決済データの統合と日次に近い採算管理の実現、需要予測と発注最適化、返品されにくい商品設計への投資へと移行する。

購買担当者の評価指標も変える

仕入れ担当者のKPIを「前年単価比削減率」だけにすると、MOQの増加や長期契約、在庫の押し込みを通じて全社利益が悪化しても、購買部門だけが高評価になる逆インセンティブが生じる。

評価軸の見直し案として、着地原価の改善率に加えて欠品率・不良率・在庫日数・GMROIを組み合わせることが考えられる。単価だけでなく調達の総合的なコストと質を評価する仕組みに移行することが、利益管理の改善につながる。

実務チェックリストで現状を確認する

以下の項目を確認し、NGシグナルに当てはまる部分から手を入れていくとよい。

  • □ 購入価格ではなく着地原価でサプライヤーを比較しているか(NGシグナル:FOB/EXW単価だけで採用)
  • □ MOQによる余剰在庫コストを見積もっているか(NGシグナル:単価値引きだけでMOQ増を承認)
  • □ SKU別に30/60/90日以上の滞留在庫を把握しているか(NGシグナル:平均在庫だけ管理)
  • □ 値下げ・廃棄・評価損をSKUに戻しているか(NGシグナル:本部共通損失として処理)
  • □ チャネル別の最低採算価格が設定されているか(NGシグナル:全チャネル同価格で採算不明)
  • □ 送料無料の閾値を注文単位の貢献利益から設計しているか(NGシグナル:競合模倣で一律設定)
  • □ 返品理由をSKU・サイズ・顧客別に分析しているか(NGシグナル:「顧客都合」で一括処理)
  • □ CACに値引き・ポイント・アフィリエイトも含めているか(NGシグナル:広告媒体費のみCAC)
  • □ LTVを売上ではなく貢献利益で算定しているか(NGシグナル:売上LTV/CACで評価)

まとめ:「粗利率」を入口に格下げし、貢献利益で判断する

「売れているのに利益が残らない商品」の正体は、粗利率の外側にある。物流・返品・モール手数料・広告費・在庫評価損といったコストが積み上がることで、粗利率35%の商品が1注文あたり赤字になることは珍しくない。

最終的な商品継続・仕入れ量・価格・広告・チャネルの判断には、次の段階で商品を評価することが必要だ。

  1. 実現売価(値引き・返品控除後)
  2. **着地原価(Landed Cost)**を差し引いた粗利益
  3. 注文貢献利益(CM1/CM2):物流・手数料・広告・返品を控除
  4. 在庫資本効率(GMROI/CMROI):資金拘束コストを加味

粗利率は捨てるべきKPIではなく、「入口のKPI」に位置づけることが適切だ。採算の最終判断は貢献利益と在庫効率指標、そして契約条件まで含めて行う。

反対の視点からも見ておく価値がある。粗利率自体は低くても、高回転・低返品・まとめ買い・低広告費・低物流負荷の商品は、高い資本効率を生む「本当の優良商品」になり得る。

売上ランキングではなく、採算ランキングで商品ポートフォリオを評価する習慣が、利益構造の改善の出発点になる。

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